エピローグ
せっかく、物語を終わらせたのだが、残された人たちのその後が気になるので、一言。
まず、置いてきぼりにされた Odysseus.この英雄は「さびしく残りの生涯を終えることになる」という運命に置かれていたのであり、本人も、「疲れたしそれで良いや」と諦めていたのだが、本人はそのつもりでも、また、運命は決まっていても、運命など好き勝手に踏みにじる生き物が存在するのだ。
ある日、なんの予告もなく、また、それらしいストーリーもなく、イタケーに残してきた Odysseus の妻 Penelope が現れる。Penelope はいきなり Odysseus を張り飛ばすと、
「あなたが、ちょこちょこ動き回るから見つけるのに苦労するのです! 最初から、じっとしていればこんな苦労は!」
とお叱りになり、有無を言わさず故郷のイタケーに連れ帰ってしまった。
次にイルマ だが、イルマは祈るという行為に目覚め、Liebfrauenkirche (聖母教会)でお祈りとワイン(もちろん Liebfrauenmilch)一筋の日々を送っている。世界 Irmin 教などというカルトを作り出さなかったのは、真に結構なことである。
ユニコーンは別の荒ぶる乙女を探して旅を続けたのだが、ナウシカを越える乙女は、そう簡単には見つからなかった。オデュッセウス顔負けの長い長い迷走の果てに、「肉を削ぐ乙女」に出会う。しかし、残念なことにユニコーンは、この乙女とタッグを組むための必須の呪文「 Mi Casa Es Su Casa 」(私の家はあなたの家)を知らなかったので、彼女と一緒にいた荒ぶる食欲の少女「ふかし芋の乙女」とタッグを組むことになる。
苦沙奈は、「女神さまと同じ!」という、なにやら根拠のない自信を付け、「あめのうずめのみこと」護衛艦隊を組織し、その旗艦副長に納まる(艦長は空席)。彼女のイメージカラーは、あざやかな青。未だに「金色の野」のナウシカへの憧れは有るようだが、ナウシカは艦隊指令に祭り上げられているのである。女神さま乗艦の際は、常に苦沙奈だけと一緒の単艦行動であり、それはエーゲ海ならではの、実に開放的で楽しげなヨットクルーズであったという。
黒猫は、モフモフしたものが大好きになった苦沙奈にかわいがられ、その肩に乗っかって暮らし、波しぶきを浴びる甲板では胸元に収まるという特権さえ手に入れたのである。しかし、この黒猫は雌だったので、それは別段うれしい特権ではなかった。
それでは、風そよぐ金色の野のナウシカとペアを組むべき「金毛の虎」、その叡智はオモイカネーにも匹敵するかーさん虎はどうしたかと言うと、こちらは「金毛の獅子」を目指して修行中である。まったく、「まだかしこくなるつもりか?」とあきれるしかない。
湯葉さまは・・・湯葉は湯葉である。
そして、ナウシカ。
地中海の強い日差し(と言っても緯度は東京と同じようなものだが)が遠慮もなく降り注ぐ真夏の午後、とても見晴らしの良い丘の上に、「あめのうずめのみこと」とナウシカは仲よく並んで座っていた。泉の冷たい湧き水で水浴びをして身体をしっかり冷やして、べたべたの汗も全部、さっぱりと洗い流してくつろいでいるので、やたらに強い日差しも気持ちよいほど。
「あめのうずめのお姉様。あの、わたし・・・」
「どうしたの? さつきお姉様」
「フフ・・・お姉さまと呼ばれるのはお嫌い? じゃあ、お姉様ではなくて・・・なんて呼ぼうかしら・・・メイちゃん」
「あのね,メイちゃん,ほっといて良いんですか? ニーチェさんの天の岩屋戸」
「良いのです。私は同じ失敗は繰り返しません」
「・・・そう・・・」
「ナウシカ.言ってごらんなさい。言いたいのは、別のことでしょ?」
「あの・・・あのね、メイちゃん。わたし、詩を作ったのです」
「聞かせてちょうだい、ナウシカ」
「絶対に笑わないで下さいね、メイちゃん」
という経緯で、ナウシカは、とても恥ずかしそうにだが、ぬけぬけと詩と称するものを披露したのである。
存在しない世界への賛歌
世界は、湯葉さまの召し上がる豆カンのよう
たっぷりと盛られた寒天たち
ゆで小豆も白玉も、アイスクリームや黒蜜も
そしてこのサクランボも
すべてプニュプニュした寒天たちに映った色あざやかな影
でも、本当は影を投げかける白玉もゆで小豆もなく
影を映す寒天もないのです
目を離せなくなるフルーツのような唇も、そこに映った影
存在しない寒天が形作る私たちの住む存在しない世界
求肥にクリーム、蜜、あん!
そしてサクランボと、サクランボと、フルーツ!
世界はなんておいしそう!
聖カトリーナの如き賢き娘 王女ナウシカ
さすがはナウシカであり、理解不能である。しかし、「あめのうずめのみこと」は神なので、この深甚なるお言葉の意味を即座に理解したようである。
「ナウシカ、またクリームあんみつが食べたいんだね。今度は、二人だけで食べに行きましょう!」
「メイちゃん! いつ?」
ナウシカは目をキラキラさせながら尋ねる。
「そう、日光をたっぷり浴びてビタミンDもできたし・・・いま!」
こうして、この二人、ようやく衣をまといて、いそいそと緑あざやかな丘を降りて行ったのである。
仲良き姿はまことに美しいとぼくは思うものだ。