遭遇
ナウシカたちが次に訪れた王都、そこはパクスオクスリーナの地であった。町の人々は、すでにナウシカの旅の物語を知っていて、ナウシカさま御一行が近づいてくることを察知するや歓迎の準備をして待ち構えていたのである。
城門にはバナーが飾られていた。
歓迎 オデュッセウス さま
ようこそナウシカ!
ナウシカは狼狽し、慌てて顔成紙を取り出した。しかし、バナーには「ようこそナウシカ」とも書かれている。いったい、どうなっているのだろうか。
顔成紙を使う間もなく、華やかに着飾った人々が城門から出てきて、ナウシカに「お帰りなさい。オデュッセウス さま」と呼びかけて来る。子供たちは、母のスカートの影から興味津々の様子で顔を覗かせ、「見て! あれがナウシカさま」とささやき会っている。ナウシカはもうどうでも良くなり、適当に応対することにした。結論から言うならば、これで良いのである。オクスリアンは、論理的整合性にはあまり関心がないのだから。
楽隊の演奏が始まり、沿道の人々の歓声を受けながらナウシカたちは中央広場へと進む。そこは式典の会場。ナウシカたちを待っていたのは、手に手に月桂樹の飾りを持った小さな子供たちであった。子供たちは目をキラキラと輝かせながらナウシカめがけて走り寄ってくる。
「ひめねーさま! ひめねーさま!」
突然、ナウシカの身体は青い光を発する。高圧線の碍子を伝わるコロナ放電のような光。ナウシカの身体にすがりついていた子供たちは、はね飛ばされ、ある子は気を失い、ある子は泣き出してしまう。母親たちは心配そうに子供たちを抱きしめるのだが、そこに怒りはない。しかし、ナウシカの身体は怒りに震え、まだ全身から青い光を飛ばしている。
「なんなのだ、この偽りに満ちた生ぬるい空気は! 此所には偽物しかない!」
怒りの形相のナウシカは辺りを見回し、幼い子供たちにしてしまったことに気づき、我に返る。
「湯葉さま。わたし、自分が怖い」
「ナウシカ!」
湯葉はナウシカを強く抱きしめ、落ち着くのを待ちながら話しかける。
「ナウシカ。落ち着きなさい。これは、この人たちがお前を喜ばせたい一心でしたことなのだ。この人たちは本当に優しい人たちだ。悪から離れ、優しさだけで光の中を生きていて、この人たちの心には、闇はおろか一点の陰りもない」
否! 光は闇のなかに煌めく!
ナウシカの言葉は、オクスリアンの心に響くものがあったのだろうか。人々は去り、辺りには誰もいなくなった。広場に取り残されたナウシカたちは、ようやく落ち着きを取り戻し、この異常な世界の最初の衝撃を振り返り、いったい何があったのかと、それぞれが、それぞれの性格で検討し始めた。ところが、束の間の休息は、美しく柔らかな音楽の響で破られる。
広場の四方から、家々のバルコニーから、ギリシャ風の衣装を着た(まあ、ここはギリシャなので当たり前なのだが)合唱隊が現れ、見事なハーモニーの合唱が始まる。
「いな、いな、いなー」
「いなー」
「光は闇のな・か・にー」
「そう。光は闇のー」
「闇のー」
ナウシカは両手で耳を塞ぐと、およそナウシカらしくない怯えきった叫び声を上げ、駆けだした。人々をはね除け、城門を抜けて、山の中まで一気に駆けて行ったのである。
心配した湯葉たちが後を追うと、草むらの中で、まだ耳を塞ぎ頭を抱え座り込んでいるナウシカの姿があった。
「ああっ、湯葉さま。痒い! 体中が痒い!」
手も足も、ナウシカの身体はじんま疹の真っ赤なぶつぶつに覆われ、美しい肢体を持つ乙女ナウシカは、無惨な姿で震えているのであった。
日が暮れて真っ暗になる頃にはじんま疹も治まり、疲れ果てた一行は、なにがあったのか考えるのも煩わしく、食事も取らずに眠ってしまった。