古江戸物語: 1. 穢土

1.穢土

来てはならぬ息はするな
月無き闇夜は沢に月

江戸・・・・・・

家康の旗印にある穢土とよばれた忌み地である。

三河からこの地に移されて以来百年以上にわたり,丘を削り,海を埋め立て,土を入れ替え,堀を通し,武蔵野から水を引き入れと執拗に普請を続け,そして繰り返し町は焼き払われ,その結果として兎に角も「江戸」は繁栄の地としてその形を為し,忌み地の不気味な記憶は将門の呪いに巧妙にすり替えられ,消し去られた。

もはや江戸が穢土であったとの記憶は薄れ,ましてや,穢土が穢土となる前のこの地の繁栄は,語られることはない。

穢土となる以前の輝かしい繁栄。この地は,あたかも地理の制約から,また歴史の制約から解き放たれたかのように,虚空の蓮華の如き繁栄の華を咲かせていたのである。

輝かしい文明の精華「古江戸」は,華麗なる騎士達の戦いと,それに続く無惨な絶滅戦争を経て,最後にMalマルNotchノッチにより滅びる。残されたのは,「穢土」と呼ばれる忌み地であった。

この恐ろしい結果は確実に予想できたので,決して誰も手を着けぬと思われていたMalNotch。 しかし,最後にはそのようなものにまで行き着くということも,戦争の姿なのであろう。

さて,このように言うと,「まあ,核戦争のようなものを言っているのだろう」とお思いだろうし,また,「沢に月」などは「放射性物質の吹きだまりが青い光を発しているってことか」とお考えだろうが,そうではない。

いや,そうかもしれないのだが,わからない。MalNotch がなにかは分からない。 それどころか, MalNotchがどのようにこの地を滅ばしたのかという確実な記録も,残されていない。

それはともかく,では穢土がどのように穢土であったかというと,それさえも,わからない。 わかっているのは,この地はMalNotchにより滅び忌み地となり,家康がとてもいやがる穢土となったということだけである。

「浄土が好き,それがだめでも,とにかく行きたくないのは Only Edo! 」・・・・・・家康

これほどまでにいやがる家康をこの地に追いやった秀吉にも「君,たいがいにしたまえ」と言いたいが,意地になって土地改造を成し遂げた家康とその子孫も,頑固者である。 否,頑固者の話をしようというのではない。 これから語るのは,穢土の前の失われた文化圏「古江戸」の繁栄と闘争の物語である。