地獄の初心者

Ⅴ 地獄の初心者

「翌日」と言って良いのでしょうか、ヨア キムは寝台の上で目を覚ましました。同時に、鉄の塊が顔に落ちてきたような圧倒的な絶望と恐怖に押しつぶされます。ヨアキムは、炎の中で必死に求めた呪いの身体を取り戻していたのです。

端から見れば、「馬鹿げた執着だなあ」と言うしかありません。苦しみの元となる「呪いの身体」を取り戻したいと願うなど、愚かにも程があるのです。しかし、あの痛みのなかでは、一瞬でも炎から隔ててくれるものならば、なんであろうと飛びつきたかったのです。理屈で言えば、「消防隊員の着ている銀色の耐火服が欲しい」と願う方が理にかなっていますし、そもそも、「炎など無くなれ」と願うべきなのですが、いや、もっと本当のことを言うならば「身体は無くなれ」と願うべきなのですが、痛みのなかでは、「考える」などという行為はできず、直前に炎から隔ててくれたものを必死で求めることしかできないのです(たぶん、そうだと思います)。

このようなわけで、これからヨアキムは毎日、ちゃんとした身体で目を覚まし、焼かれて身体を失いながら身体を求めて、願い通りちゃんとした身体で目を覚ます、という痛みと恐怖の決まり切った日常を繰り返すことになったのでした。 炉の中での恐怖

しかし、最初の頃、まだ初心者だった頃は、色々と初心者らしい行いもしたのです。

列挙してみましょう。

  • 看守に許しを請う。・・・言うまでもなく無駄。
  • 何日経ったかわかるように、牢獄の壁に印を付ける。・・・何日我慢しなければならないのか聞いていなかったし、そもそも、一日でも耐えられないものを数えても辛さが増すだけ。
  • 看守が来る前に自殺しようと努力する。・・・これは痛いだけで、身体を破壊しきる程の体力もないので無駄。頭が半分割れた状態で引きずられていく羽目になります。
  • 目的もなしに暴れ回る。・・・もちろん、無駄です。最初から、無駄とわかってやっているのですが。こんな気晴らしは、看守の足音がいつ聞こえてくるかという恐怖の中でやり遂げられるものではありません。
  • 叫ぶ。・・・気持ちはわかります。
  • 恐怖に引きつった顔になる。・・・実は、これも初心者ならではなのです。

初心者としての日々はどのくらい続いたのでしょうか。それは不明ですが、ヨアキムは地獄のベテランに昇格してゆきました。