あまりにも凄まじい貫通力

あまりにも凄まじい貫通力

放射線

放射線と呼ばれているものには,アルファ線,ベータ線,ガンマ線などがあります。

そのうち,アルファ線はヘリウムの原子核であり,重いために速度は遅く,また,この原子核に含まれる陽子は電荷を持っており,そのため,物質の中を通り抜けようとするとき周囲の物質と相互作用をしたがるのです。結果として,貫通力はほとんどありません。

ベータ線は電子線であり電荷を持ちますが,同じエネルギーの場合,ヘリウム原子核よりはずっと軽いため速度は速く,多少の貫通力ならあります。これは,かなりいい加減な説明なのですが,面倒なのでこれで良いことにしましょう。ベータ線の貫通力も,あるとは言ってもたいしたことはなく,たいていの場合,薄い金属箔一枚程度で防ぐことができます。

それに対して,ガンマ線は高い貫通力をもっていて,コンクリートの建物の中に居ても安全とは限りません。他にもエックス線というものもあって紛らわしいのですが,めんどくさいので,これもガンマ線もどきと考えることにしましょう。エックス線も,レントゲン写真というものからもわかるように,それなりの貫通力をもっています。

あと,中性子線という高い貫通力をもったやっかいな放射線があり,これは戦車の厚い装甲も貫いてしまうので,相当に危険なやつです。それでも,特殊な装甲(これは,中性子線に対する``断面積''が大きな元素を含む装甲です)により防ぐことはできるのでしょうが,中性子線よりも桁外れに高い貫通力をもった放射線が兵器として開発されたら,どうなってしまうのでしょうか。

またもや,あの執務室

ある日の米国大統領執務室でのベストメンバーの会議です(これを会議と言って良いかは疑問ですが)。

国務長官のショーターコンラッドが執務室に入ってきます。

日本から極秘扱いのメッセージ。日本から直接,地球を貫通して米国を攻撃できる特殊砲を開発,配備を終えたとのことです

えっ?

なんでも,地球の内部を直線で貫通して,日本から米国の都市を撃つことのできる,放射線砲だとか

それは防御不能ですね!

北朝鮮を狙うのでなく,なんで米国を? 実に面白いことを考える

面白いって言えば,イギリスのお笑いショーをアメリカでも焼き直しで放映しているでしょ。ドイツでもあれの焼き直し版があってね

いや,まさか,それはつまらないでしょう。ドイツだし

そうなんですけど,同じ設定で同じ事をやっているのに,どうしてあそこまでつまらなくできるのかと,そこが面白くて

いやいや,それは友好国に対してあんまりで。それに友好国日本の言ってきていることを検討してあげないと

そうですね。それで,予告も無しにいきなり攻撃? 真珠湾のときみたいに

真珠湾の場合は,予告が無いと言っても開戦の可能性は十分あったわけだけど,今はなあ

それに,Y-56 のような企画を建てることができそうな人間がいる?

そう。あのプランは余りにもやけっぱち。だけど,あれは勝つプラン でした。空母中心の機動部隊で奇襲して米国空母艦隊に遭遇して無力化して,しかも艦載機で戦艦もついでに痛めつけておいて,最後に後続の戦艦と一緒になって一網打尽! 余りにも偶然に頼っているけれど,それ以外に,勝つプランはなかったでしょ。負けないプランならともかく

もともと,日本は負けないプラン作りの専門家だから。負けた後でも,日本人の書いた本は "なぜ負けたのか" という分析ばかり

確かに。負けないプランなんてものは,生産力に大差がある状況では,もっと偶然に頼ることになってしまうのだからね。それぞれの作戦は程々の確率で勝てるはずのものであっても,そのうちの一回でも外れて大負けしたら実質的に終わり,というのではね。その位ならば,僅かの確率であっても一回だけ幸運に期待する "勝つプラン" の方が,よっぽどまし

つまり,Y-56 は真珠湾で戦艦をぼこぼこ沈めたときに,空母が不在ということで失敗を覚悟したわけだ。後は,たまたま空母艦隊に遭遇する以外に勝利への道は無かったわけで。それにしても,奇襲にもならないのに同じパターンの攻撃をもう一度やってくるとは,とても良い根性

それを考えると,ミッドウェーで空母艦隊の決戦をしてしまったのは,Y-56 の思うつぼだったか。もう少し,だらだら立ち回るべきだったのでしょうか。しかし,結果が良かったから,文句は言わないが

まあ,どちらにしろ,今,日本がなんかしてくるわけはないでしょうね

ところで,それは良いとして,日本はその "不思議な大砲" をなんと呼んでいるのですか?

「お名前は?」などという本質的な点をいきなり尋ねたのは,首席補佐官のクリーヴェッジである。

確か,超ニュートリノ砲とか

ああ,ニュートリノ砲ね。超であろうとなかろと。あの日本がねぇ。変わるものね

クリーヴェッジは,なんだか嬉しそうである。

さて,これはお返事を工夫しないと。どうしようかしら。そう,北朝鮮の金日成将軍の縮地法とかいうのがあったでしょ?あれを使いましょう。えーと,それでは 親愛なる日本国総理大臣・・・・・・ 誰でしたっけ? そうね,手紙が届く間に変わるかも知れないから,宛先は単に親愛なるなる日本国総理大臣としておきましょう。本文にいきますね

アメリカ合衆国はすでに,合衆国すべての住民とその資産,および合衆国の所有するすべての資産,これらすべてについて,それらを構成する原子核の衝突断面積を縮小しております。したがって,遺憾ながら,貴国の新型兵器は我が国に対し,その威力を十分に発揮できないものと危惧しております。今後も合衆国との同盟の下,貴国が更なる発展をとげられることと期待しております。

署名 あなたのクリーヴェジ

こんなところで,どうでしょうか?

こうして,執務室の面々は,「あの日本」が提供してくれたくつろぎの時間でリフレッシュして,次の議題に取りかかったのでした。

解説

この場合のポイントは,「貫通力」という事の意味。

この場合の貫通力は「途中でぶち当たる原子核達をガンガンはね飛ばして突き進む」というのではなく,原子核達の間を「すり抜ける」ということなのです。

途方もないエネルギーをもっていれば,「ガンガンはね飛ばす」こともできるでしょうが,さすがに地球貫通は無理。つまり,すり抜けていくわけです。したがって,地球をすり抜けて目標に到達しても,せっかくの目標もすり抜けてしまいます。ニュートリノというのは,そういうやつなのです。

だから,例えばウラン\(235\) の原子核が核分裂したときに解放される平均エネルギーは \(200\, \mathrm{MeV}\) と言ったとき,そのうちのニュートリノが引き受ける分 \(5\, \mathrm{MeV}\) については,なんの作用もしないので始めから無視されて平均エネルギー \(195\, \mathrm{MeV}\) と言われてしまうくらい,とにかくなにもしないのです。

要するに,貫通力というものは放射線の危険性のひとつの側面であり,貫通力を欠くアルファ線であっても,体内から被曝することになると,とても危険なものとなるわけです。